新しい自分を自覚しているからこそ、かつての自分を取り戻そうともしている。
両方を手にするには、当然ながら生みの苦しみを伴うものなのだろう。
27歳になった関根貴大は、ようやくそのヒントをつかみつつある。
苦しくても、もがくことをやめないのは、自分自身の成長、背番号14を背負う責任、副キャプテンとしての使命——アカデミー時代から積み重ねてきた浦和レッズへの思いが渦巻いているからだ。
「ACL(AFCチャンピオンズリーグ2022)のグループステージが終わって、日本に帰ってきてからは、またスタメンで試合に出場する機会が増えてきました。そのなかでチームが勝てていない結果に対しては、僕自身、強く責任を感じています。試合に出ているからには、自分がプレーで魅せたいという思いでやっていますけど、なかなか存在価値を示せていないという事実がある。
試合は相手があることなので、自分たちのやりたいことができない状況や時間帯もある。そうしたときに、例えば個の力で違いを見せることも大事だと思っています。そういった意味で、自分のところでその違いを見出せていない。そのもどかしさや悔しさを今、すごく感じています」
リカルド ロドリゲス監督のサッカーに触れ、選手としてプレーの幅が広がったことを強く実感している。
「以前よりもパスワークを重視するサッカーになり、自分に足りなかった要素を、自分のものにしたいと思って取り組んできました。その結果、周りを見て適切なポジショニングが取れるようになったと思っていますし、相手のやり方を見て自分のプレースタイルも変えられるようになったと感じています」
自分の立ち位置を変えることで、チームメートを活かすプレーがその一つだ。
例えば、J1リーグ第14節の鹿島アントラーズ戦である。柴戸海のフィードに明本考浩が抜け出し、相手のハンドを誘発した場面では、関根が下がることで明本が駆け上がるスペースを作り出していた。
「試合に関わっていないように見えてしまうことも多いかもしれないですが、周りを動かすプレーやチームをうまく機能させるプレーができるようになってきた。自分が今、スタメンで試合に出られている意味を考えたとき、そこが強みだとすら思っています。周りを活かすプレーが成長したからこそ、監督に評価してもらえている実感があります」
インサイドでプレーしているときも外に開いて、後方の選手がインナーラップするスペースを空けている。
ワイドでプレーしているときには逆に内側に入ることで、やはり後方の選手が駆け上がるためのタイミングを作り出している。明らかにチームのために判断、または選択しているプレーが増えた。
ただ、チームが勝てない状況に責任を感じ、自分自身に矢印を向ければ、見えてきたことがあった。
「今までの自分になかったものを得たぶん、今まで自分が持っていたものを失うじゃないですけど、なくしてしまっているのではないかということに気付いたんです」
それはドリブル——仕掛ける姿勢だった。
関根は言う。
「決してゴールに対して貪欲になっていないわけではないんです。むしろ、ゴール前に顔を出すタイミングや回数は昔よりも多くなっていると思っています。鹿島戦でもシュートには届かなかったですけど、ハイクロスに対して入っていくようなプレーも、自分の意識として変えたところもあります。
ただ……誰が見ても分かるような、個で相手をはがしてDF全員を抜いてシュートを決めるくらいの馬力というか、ドリブルは今の自分にはなかったなって」
周りや状況が見えるようになったことで、パスを受ける動きの質にも変化と向上が見られている。関根のプレーを注視すれば、絶好のタイミングで動き出していることがよく分かる。
しかし、関根が動いても肝心のパスがスペースや足元に出てこない。関根自身もそれを痛感し、自分をさらに見つめ直した。
「以前はパスが出てきていたのに、今はパスが出てこない。その理由を考えたとき、それは出し手に問題があるのではなく、受け手である自分にも原因があるというか。もしかしたらチームメートに、自分がドリブルで仕掛けられるイメージを持ってもらえていないのかもしれないと感じたんです。
対戦相手やファン・サポーターが自分に対してどういうイメージを持ってくれているかを考えたことはありましたけど、チーム内でどう見られているかは考えていなかった。ここ最近、周りを活かそう、活かそうということばかりを考えてプレーしてきた結果、自分を活かしてもらおうとなったとき、個で相手をはがせる選手というイメージの共有ができていなかったのではないかと思ったんです」
サイドで縦の関係を築くことの多い明本には、難しいと感じる状況でもパスを出してほしいと訴えた。
攻撃の起点になることの多い江坂任には、ロングボールを受けたときには、パスが通らなかったとしても拾ってみせるから出してくれと要求した。
そこには責任が生じるが、チームメートにも、周りにも、自分にはドリブルという武器があることを今一度、証明しようと決意した表れでもあった。
「できることが増えたことによって、チームのためにという意識が、自分の頭の中でも大きなパーセンテージを占めていましたが、それを逆転させるくらいのつもりでプレーすれば、周りにも伝わると思うんですよね。イメージを変える作業は、決して簡単なことではないと思いますが、やり続けていかなければ変わらない。
プレーの幅が広がった今の自分に加えて、昔の自分が持っていた良さも持ち続けなければチームを勝たせられる存在にはなれない。そこはきっと、これからの自分のサッカー人生においても大きなポイントになっていくと思っています」
鹿島戦で、クラブ設立30周年を記念してファン・サポーターが描いてくれたビジュアルサポートを見て、関根は思っていた。
「あのファン・サポーターが作り出してくれた雰囲気と後押しが力になるし、僕らの体を動かしてくれる。あと一歩、二歩という目に見えない力を出させてくれるのが、ファン・サポーターの存在なんです」
その彼らが望んでいるのは、果敢にドリブルで仕掛ける背番号14の姿だろう。
「やっぱり関根だよなって言わせたいですよね。自分の存在価値をまた示せるように、今一度、魅せたいと思います」
新たなプレーができるようになったからといって、かつての自分を閉じ込める必要はない。仕掛けるプレーがチームに勢いをもたらし、スタジアムのボルテージを上昇させる。
チームを活かし、個も輝く。自分の武器が何たるかを再認識した関根がチームを勝たせるプレーを見せる。その姿勢は勝利につながっていくはずだ。
(取材・文/原田大輔)
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