コロナ禍で外出する頻度が減ったことで、アパレル業界の売り上げは激減。大量の在庫を抱えることになった。この「過剰在庫」が、アパレル各社の経営を大きく揺るがしている。
アパレル業界には長年、「在庫切れは悪」という感覚が文化のように根付いていたという。その結果、大量の在庫を抱え、売れ残り品は処分するという「大量生産・大量廃棄」型ビジネスモデルのひずみがコロナ禍で一気に吹き出した。大手レナウンの経営破綻はその筆頭だ。
注目される経営指標「GMROI」とは?
危機的状況から脱却できるのはどの企業なのか。それを知る指標の一つとして最近注目されているのが、GMROI(商品投下資本粗利益率)だ。
GMROIは、商品への投資がどれだけ売り上げに貢献しているか、平たく言えば「いかに少ない在庫で多くの粗利益を稼げるか」を示している。
「コロナ禍を機に、GMROIに注目する企業が明らかに増えました」
こう話すのは、在庫分析クラウドシステム(SaaS)ベンチャー「フルカイテン」戦略広報チームの南昇平氏だ。GMROIを経営のKPIとして採用する企業も増えているという。
そうした状況を踏まえ、同社はこのほど、大手アパレル企業の過剰在庫問題がどの程度改善しているのか、GMROIに着目した “経営回復度”を分析した。
まずは、【図1】を見てほしい。大手各社の2022年2月期決算をもとに、コロナ禍以降のGMROIの推移をまとめたグラフだ(詳細はリンクを参照)。
【図1】大手アパレル企業のGMROIの推移①(2020年2月期を1とした場合)※決算期の異なるファーストリテイリング、ライトオンは2021年3月〜2022年2月の数値で算出。
出所:フルカイテン発表資料をもとに作成
赤字の三陽商会がV字回復、ファストリは安定の“巡航速度”
目を引くのは、バーバリーからライセンス契約を打ち切られたことを機に経営危機に陥った三陽商会だ。2022年2月期で6期連続の赤字となった同社だが、GMROIではV字回復をしている。なぜなのか。
「三陽商会は、1年前の2021年2月期、仕入れ額と期末在庫を前年比でそれぞれ3割も減らしたんです。2022年2月期はさらにそこから期末在庫を16%減らし、粗利益率も向上しました。
つまり、新しい仕入れを減らし、既存の在庫を安売りせずに販売できたため、GMROIが大きく改善しているというわけです」(南氏)
仕入れを抑制して値引きをせず売るという方向性は間違っていないが、人件費を含む固定費が足かせとなって営業赤字が続いている、と南氏は指摘する。
「黒字化させるには、販管費をさらに減らしていくことがポイントになると思います」(南氏)
ファーストリテイリングも、コロナ禍前を超える水準まで回復した。
「経済的に効率の良い“巡航速度”で走っているといえます。2021年前半から仕入額・在庫ともに減らし、その水準を維持している。今後いかに安定して利益に換えていけるかに注目しています」(南氏)
良品計画もコロナ禍前ほどではないものの、緩やかなV字回復となっている。ただ、ファーストリテイリングとは異なる事情も存在しているという。
「(コロナ禍前の)2020年2月期の良品計画は、海外も含めたグローバルな過剰在庫問題が指摘されていました。その当時の値までGMROIが戻っていないんです。それを踏まえると、営業黒字ではありますが、在庫の観点ではまだ改善の途上にあると見ています」(南氏)