認知症とともにあるウェブメディア

きついって思われていること以上の小さな感動の連続が介護の世界にあった

介護の仕事は今、ダイバーシティーの最先端でもあります。多様な世代が多様な働き方をし、その働きやすさが人材を集める好循環と利用者の満足度の向上を生み出しています。京都福祉サービス協会の高齢者福祉施設「紫野」で、特別養護老人ホームやデイサービスの仕事をしている5人のスタッフに、5年後や10年後の介護や自分が理想とする介護、これからやってみたい介護について語ってもらいました。(ポートレート用写真の撮影のとき、マスクを外して撮影しました)

現場職員と地域住民が語る介護の未来の記事「京都から考えるⅡ 西院編」はこちら

座談会参加者

井上貴之さん(特別養護老人ホーム)
植村真妃さん(同)
小野山恵子さん(同)
飯田ナミ子さん(デイサービス)
山本早織さん(同)
*カッコ内は紫野内での担当
*モデレーター:岩崎賢一(朝日新聞社)

前列左から、井上さん、植村さん。後列左から飯田さん、山本さん、小野山さん

ケアマネ受験を目指し、夫婦で支え合い

――ここには多様な世代、多様な働き方の職員に集まってもらいましたが、まずは介護の世界での5年、10年後のキャリアプランをみなさんはどのように考えていますか。

井上さん:あと実務を2~3年積むと介護支援専門員(ケアマネジャー)の受験資格が得られます。ケアマネ受験の中で新たな学びがあると思うので、今はそこを目標に仕事をしています。妻も同じような仕事をしていますが、同じ世界を知っている者同士なので、支え合っていこうと話しています。

植村さん:一応、5年以内に結婚できたらと考えておりますが、結婚してもこの仕事は続けていきたいと思っています。ちゃんと自分の私生活と仕事を両立して、うまくやっていけたらなぁって思っています。この現場が好きなので、ご利用者と関わっているのがすごく楽しいので。

利用者さんが希望するライフスタイルを実現したい

――実務を積み重ねていく中で、自分の中に「理想の介護」みたいなものが芽生えてきていますか。

植村さん:ユニットで15人のご利用者と過ごしていますが、ご利用者の希望に沿ったライフスタイルが実現できているかっていうと、やっぱり難しいこともあるのかなって思っています。経験を積んで心に余裕が持てるようになると、理想と現実のギャップで心が痛くなることもあります。でも自分だけではどうにもできないことがあって、落ち込んじゃうときもあります。

――どうやって切り替えていくのですか。

植村さん:この気持ちを上司や同じフロアの同僚、違うフロアの同僚と共有することで、「あ、私だけじゃない。他にもそうやって考えてくれている人おるんや」って分かると少し心の余裕を持つことができます。「じゃあ、どうしていったらいいんやろう」って、みんなで考えられる環境や関係性があるので、私は今までやってこられているのだと思います。

母の介護をきっかけに介護の仕事に転職

――小野山さんはご家族の介護をきっかけに介護の現場で働くようになったそうですね。

小野山さん:淡路島で兄夫婦と暮らしていた母を通じて介護に触れたのが初めての経験です。介護施設で働き始めて介護の世界を知った今考えると、「ああ、もっとこういう方法があったな」と後悔することもあります。でも、当時は、介護保険サービスのことを何も知らなかったので……。以前はアパレル系の販売の仕事をしていました。私の年齢で正職員として受け入れてくれる可能性があるのはやっぱり介護かなと思ったんです。自宅と職場が近いということもありますね。ここで働くようになって、植村さんのような若い職員がご利用者のことをすごくいとおしく思っているのが新鮮でしたね。

ボランティアをしてみたらすごく向いていると感じて入職

――デイサービスで働かれている飯田さんは、10年以上この施設で働いているそうですね。最初は介護職員として働いていて、70歳から周辺業務が中心の介護助手としての仕事に切り替えたそうですね。

飯田さん:西陣の組合で事務員をしていました。2002年に紫野の施設ができたのでボランティアをさせてもらったんです。「私、すごくこの仕事が向いているなぁ」と感じたので、職員の方に相談して働かせてもらうことになりました。当時52歳でした。入職する前は「そんなにきつい仕事はできない」と思っていましたが、その後、介護福祉士の勉強もさせてもらい、61歳で取得しました。やればできるんだと自信につながったと思います。

保育園のママ友に誘われて介護の世界へ

――山本さんは以前どんなお仕事でしていたんですか。

山本さん:ここで働き始める前は、子どもがちっちゃかったので、色々なパートの仕事をしていました。おそば屋さんとか接客の仕事をしてきました。おじいちゃんおばあちゃんが大好きで、保育園のお友だちのお母さんが「働いてみいひんか」というので、別の施設で4年ほどデイケア(通所リハビリテーション)の仕事をしていました。子どもが病気になり迷惑を掛けてしまうので、そこは辞めざるを得なかったのですが、小学生になってから再び介護の仕事を始めました。

――介護の仕事への先入観はありませんでしたか。

山本さん:ないですね。友だちでも「絶対介護の仕事はできない」っていう人もいます。「なんで」って聞いたら、一番に言うのは「トイレのお世話するの大丈夫なん?」って言います。これほんまに不思議なんですけど、臭いって思ったことないですよ。

一同:わかる、わかる。

山本さん:例えば排便の始末をすることを汚いもんやと思っていないんですよ。逆に言うと、出はって良かったぐらいに思っているので。

学生の中には「安定を求めたら公務員」みたいなところがある

――植村さんは介護の仕事に就く人材を育てる養成校(社会福祉系の大学や専門学校)の出身で、新卒で入職されたのですか。

植村さん:大学は福祉学科でした。でも介護の仕事に就くつもりはなかったんです。地元に帰って公務員とかになるんやろうなって思っていました。親は絶対そういうのを期待しているやろなっていうのが最初から分かっていたので。だから、初めて抵抗しました。介護の仕事は、きついって思われていること以上に小さな感動があります。家族みたいな絆ができたり、緊張でしゃべってくれへんかった人が顔を覚えてくれたりといったことが、結構インパクトがあって、介護の仕事は「楽しいんや」っていう確信になりました。

――同じ学部の友だちはどのようなところに就職をしているのでしょうか。

井上さん:大半の人が介護や福祉と違う仕事していますね。福祉の仕事をしたけど辞めちゃった人もいます。

植村さん:確かに私は福祉学科卒業ですけど、介護の仕事をしているのって少ないと思います。自治体や社会福祉協議会に就職する人が多くて、自分が身体を動かして介護するような仕事を選ぶ人は少なかったですね。「安定を求めたら公務員」みたいな感じなのが、学生の中にあるのは確かだと思います。

多様な人材が働く場だからこそ人間関係が大事

――5年後、10年後、みなさんが仕事をされている介護の現場は、どのように変わっていくと思いますか。

山本さん:介護の職場は、働く人の年齢も幅広くて、個性も豊かです。弱点を持っている人もいます。でもそれが普通の社会であって、普通のチームだと思います。だからこそ、さまざまなご利用者に対応できる強みになると思っています。必ず弱点も認めた上で強みをみんなで言えるように運営していくことが大事だといつも思っています。誰が来ても働きやすい職場というのは、ご利用者にとっても居心地のいい場所になると思っています。先ほど植村さんが言ったみたいに、自分の理想とギャップに悩む時があります。本当にこのスタッフの人数でこの数のご利用者にこれだけのことをしないといけないってなると、「業務が優先」と考えがちになってしまいます。そういうときに、「ご利用者を大事にしていいんやで」っていう風にみんなが言えるっていうのはすごく大事だなと思っています。飯田さんのように、70代でもバリバリやっている人もいますが、自分が70代になったときに「これして」って言われたら困るようなことを言わんとこうと、みんなが理解してくれています。職場の人間関係はすごく大事だと思います。

施設入所したら別世界に来たような感じにはしたくない

――地域と介護施設の関係について、どのようなイメージを持っていますか。地域に開かれた介護施設というのは理想であって難しいことなのでしょうか。

井上さん:異動する前の職場では、地域の人たちとご利用者と職員が一緒になって夏祭りをして、仲良くなったらその後に地域にあるお店に行ってみたりしていました。コロナ禍でなければ介護施設と地域の人たちが関わることで、地域福祉を充実していくことができていたと思います。

植村さん:特別養護老人ホームに入所したから、今までの暮らしと別世界に来たような感じにはしたくないと思っています。施設で過ごしてはる人は、ちょっと気がめいってしまったり、帰れへんのかなって思ったりしてしまうので、地域にお外散歩に出掛けたり、小学生の横断歩道の見守りを日課にしたりとかする工夫をしています。紫野で暮らしていても、地域の人と関わりあって、役割を持って、施設で暮らしていても地域とつながっているみたいなことを感じられる機会をもっと増やしていけたらいいなって思っています。

山本さん:地域の人たちが施設の中に足を踏み入れる機会が本当に少ないんです。以前ボランティアに来てくれていた人がご利用者になってきています。コロナが終息したら、施設を開放して地域の人たちが自由に出入りできるようになるといいなと思います。

喜んではる顔を見たいに尽きるんです

――理想の介護、自分がやりたい介護を教えて下さい。

飯田さん:ご利用者の方々はとにかく外に出たいんです。2年ぶりに紅葉見学に行ったときの喜びが忘れられません。私が介護される側でしたら、介護施設にはどんどん外に出してもらいたいなと思います。

井上さん:病気や障害への理解も重要ですが、それ以上に「自分の大事な人」といった感覚で接することができたらいいなと思っています。

小野山さん:どのような状態であっても信頼関係があるような介護を心がけたいと思っています。

植村さん:高齢で要介護度が上がってくる前に、限られた機会を利用して夢をかなえてあげられるような仕事をしていきたいです。

山本さん:ご利用者の喜んではる顔がみたい。もうそれに尽きるんです。認知症になられたとしても、ご利用者の喜ばはる顔ってどうやったら見られるんやろっていつも考えて接しています。

両側にご利用者の居室がある

紫野の施設長、河本歩美さんに聞く

地域社会につながるっていうことは重要なポイント

自由さとか臨機応変とかを大切にしたいと考えています。今はコロナ禍で難しいですが、特別養護老人ホームに入所していても買い物に出掛けたり、自宅に帰ったりすることができるようにしていきたいですね。そういうところに職員がやりがいを見いだしてくれるといいなと思っています。本当のところのケアや自立支援は何かと考えてくれる職場にしたいと思っています。地域社会につながるっていうことは重要なポイントなので、地域の人もボランティアの人も「こんにちは」っていう感じでちょっと立ち寄ってもらえるような場所になることが理想です。

「自宅に帰ろう」みたいな取り組みも必要ですね。その考え方の延長線上に地域とのつながりがあります。社会福祉学科で学んだ若い職員は、「地域共生」や「地域福祉」といった科目を学んできているので、そういうことやりたいっていう願望があるんですね。理想を言えば、職員全員に地域共生の考え方をしっかり植えつけられればと思います。

各フロアを回ってご利用者とコミュニケーションをとる河本さん

職員の熱量の差を埋めたい

認知症ケアでも掘り下げていきたいと思っています。不安定な精神状態や何度も同じことを話すといった認知症の周辺症状に十分対応しきれない職員がいるとき、ユニットの現場でどうすればいいか考えるようになるといいですね。そして小さな達成感を積み重ねていって欲しいですね。

新卒者を採用することがどんどん難しくなってきています。私たちのような規模が大きな法人の場合、安定を求めて来る人もいます。職員の熱量の差をなるべく埋めるように心がけることが重要だと思います。

多様な能力やスキルを持っている人たちが集まり、型にはまったことではなくて、クリエイティブな介護ができるんだという現場にしていければと考えています。

 現場職員と地域住民が語る介護の未来の記事「京都から考えるⅡ 西院編」はこちら

『GO!GO!KAI-GOプロジェクト』は、年間を通じてさまざまなイベントを実施し、福祉・介護の大切さや未来の可能性を発信していきます。
本事業は、厚生労働省補助事業「令和3年度介護のしごと魅力発信等事業(体験型・参加型イベント)」を活用して、テレビ朝日映像が主催します。

 

あわせて読みたい

この記事をシェアする

認知症とともにあるウェブメディア