今年、小平での練習を見ていると、木本恭生は以前のやや不安定な姿とは異なり、落ち着いて自陣に立つ様子が見受けられる。実はこの挙動は守備面の成長に関係していた。
レクリエーション的なメニューでも守備感覚を養う。
木本がセンターバックとして頭角をあらわしたセレッソ大阪時代、ロティーナ監督が採ったディフェンスは後方に待ち構えて相手を引き込むというもの。しかしFC東京では前からプレッシャーをかける守備を採用しているため、後方にスペースが出来る。ここを管理する守備を成り立たせるものが技術や戦術以外の部分、森重真人の存在感であると気づいたのは、背番号3が不在となっている間の3連敗だった。
いつもなら雰囲気で相手を威圧する森重真人が守備陣全体を引っ張り、その立ち位置や動きに合わせていると守備組織が破綻しない。しかし木本がその代わりを務めることは容易ではなかった。
相手を威圧するだけの“格”を身につけている森重ならではの存在感がシステムを成り立たせている以上、すぐにその真似をするのは難しい。そこで森重のようになりたいと決意した木本が実践したのは、プレーの中身で高い実力を持つと相手に悟らせ、その分相手に気後れさせようということだった。
相手をボックスの外に追い出しつつ監視し、重要なポイントへの進入を許さない守り方を木本はこう説明した。
「中を通させないというのは自分のなかですごく意識しています。あとは入れ替わらないこと。獲れそうでも、獲りに行ってかわされたら自分のポジションだと失点に直結してしまう。どちらかというとボールを持たせてもいいよ、くらいの感覚で守っているときがすごく多いかなという感じです」
スピード、パワー、技術に長けた外国籍のフォワードを相手に練習を繰り返した成果か、3連敗を止めたあとの柏戦以降のリーグ3試合では1失点と堅守を見せ、成長を感じさせた。
さらに半年間をトータルで振り返れば、コミュニケーション能力が改善されたこともディフェンダーとしての成長につながっている。
背番号30のおとなしい性格を「最初は挨拶も出来ないような状態だった」と言うのはアルベル監督だが、これは冗談ではなく、安間貴義ヘッドコーチも「どのチームに行っても喋らないというので有名だった」と言っている。その木本がFC東京に来てからがらりと変わったという。
「一言、二言言うようになったらそれはすばらしい成長」(アルベル監督)
「ここに来て笑うようになったでしょ。ラインアップの指示とかすごく声を出す」(安間ヘッドコーチ)
技術、戦術面に加えメンタルが強くなったことによる成長の伸び幅が大きいのだという。「ミスをおそれず落ち着いてやれるようになった」と、シーズンの半分を通しての精神面の変化を語る木本。ミスを全員でカバーする小平の雰囲気が開花を促している。
時間と空間がない状態でも足もとの技術は高い。
木本恭生(きもと・やすき)
静岡県出身。28歳。8月6日に29歳の誕生日を迎える。静岡学園高校を経て福岡大学へと進学。ユニバーシアード日本代表として2015年の光州(クァンジュ)大会に出場している。大学時代、特別指定でアビスパ福岡の一員としてもプレーしたが、プロデビューはセレッソ大阪。ロティーナ監督のもとでポジショナルプレーになじんだ。昨シーズンは名古屋グランパスでプレーしたが、センターバックで起用するとのオファーを魅力に感じ、FC東京へ。ロティーナ式とはちがうアルベル監督のポジショナルプレーでいっそう能力を開花させようとしている。趣味はゴルフ。
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