2022年NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」がスタートしました。ドラマは、大泉洋演じる源頼朝を中心に進んでいますが、小池栄子が演じる頼朝の妻・北条政子の奔放さに注目が集まっているようです。
今回は、そんな北条政子ゆかりの鎌倉にある諸寺を2回にわたりご案内します。【前編】では、「北条政子の紹介」と「政子の墓を伝える壽福寺」についてご紹介しました。
→「鎌倉殿の13人」尼将軍・北条政子の墓を伝える鎌倉の名刹。壽福寺と安養院【前編】
【後編】では、政子が尼将軍となった背景と、政子の墓を伝えるもう一つの寺院・安養院と政子にまつわる2つの寺院(妙本寺と浄明寺)をご紹介しましょう。
政子はなぜ尼将軍となったのか
北条政子が出家した理由は、頼朝の死がきっかけです。当時、身分の高い女性は、夫が亡くなれば出家して尼になり、その菩提を弔うのは当たり前のことでした。
しかし、政子の人生には、常に親しい親族の死がつきまといます。政子が生きた時代が、治承・寿永の乱(源平の争乱)という乱世であっても、それは尋常なことではありませんでした。
特に、自分がお腹を痛めた2人の男子、2代将軍頼家、3代将軍実朝が、いずれも殺害されるというのは、将軍の御台所の地位にいた女性にとっては異常なことであったのです。
しかも、頼家に関しては、実家の北条氏の勢力を守るために、政子が出家を命じた上に伊豆修善寺に幽閉しています。その後、頼家は政子の父時政により暗殺されてしまいます。政子自ら手を下したわけではありませんが、その死のきっかけを作ったのは、政子本人であったのです。そして、実朝も頼家の遺児公暁に暗殺され、頼朝と政子の血筋は絶えてしました。
さらに、政子が最も精神的なダメージを受けたのが、長女大姫の死であったはずです。大姫の婚約者は、人質として鎌倉にいた源(木曾)義仲の嫡男義高でした。幼い頃から政子のもとで育った2人は、相思相愛であったとされます。
しかし、義仲は頼朝と対立して敗死。義高は、頼朝の命で殺害されてしまいます。これを機に大姫は重病におちいり、わずか20歳でこの世を去りました。政子は溺愛していた娘の死に大きな衝撃を受け、自らも死を望みますが、頼朝の励ましにより、大姫の後生を弔うために生きることを決心したといわれます。
だが、大姫死亡の2年後に頼朝も死去します。『承久記』によると政子は、「これで自分の人生は終わったが、今自分が死んでしまえば幼い頼家の行く先が危ぶまれる」と述懐していました。
そして、出家して尼になり、尼将軍として夫頼朝が創出した鎌倉幕府を守り抜くための政治活動に邁進していくことになるのです。
さて、ここからは政子の墓を伝えるもう一つの鎌倉の寺院・安養院と、政子にまつわる妙本寺と浄明寺をご案内しましょう。
政子が開基し、供養塔がある安養院
安養院は、政子が頼朝の菩提を弔うために開基した長楽寺を前身とする寺院です。鎌倉末期になり現在の場所へ移転し、政子の法名「安養院如実妙観大禅定尼」から、安養院と改めたとされます。
本尊の千手観音菩薩立像は、頼朝の御家人田代信綱が創建した田代寺の本尊。江戸時代初めに、田代寺が安養院に統合され、以来、田代観音として信仰を集めてきました。
そして、本堂の裏手には小さな宝篋印塔があり、これが、政子の墓(供養塔)と伝承されています。
安養院のデータ
住所:鎌倉市大町3-1-22
拝観:8:00~16:30・拝観料100円
まだある政子ゆかりの寺院(妙本寺・浄明寺)
壽福寺と安養院の他にも、鎌倉には北条政子にまつわる寺院があります。中でもぜひご紹介したいのが、妙本寺と浄明寺です。
妙本寺は、政子が頼家を出産した場所と伝わります。寺域は、有力御家人比企能員(ひきよしかず)の屋敷があったところで、後に比企一族が北条氏によって滅ぼされたのもこの屋敷でした。この時、頼家の子一幡、すなわち政子の孫も戦火の中に没しています。
そして、この比企氏滅亡が、頼家幽閉と謀殺に繋がりました。政子が頼朝の後継者である頼家を産んだ場所が、政子が身をもって体感する源氏滅亡の始まりとなったとなったのです。
妙本寺
住所:鎌倉市大町1-15-1
拝観:境内自由・拝観料志納
浄明寺もまた、政子にまつわる歴史を伝えています。ここは、政子の妹を妻とした足利義兼が、退耕行勇(たいこうぎょうゆう)を招き、開基した寺院です。
退耕行勇は、頼朝・政子夫妻が深く帰依した人物でした。そして、この退耕行勇こそ、政子が出家する際にその戒師を務めた僧であったのです。
浄明寺のデータ
住所:鎌倉市浄明寺3-8-31
拝観:9:00~16:30・拝観料100円
いかがでしたでしょうか。今回は、尼将軍北条政子の紹介と政子に関係が深い鎌倉の4つの寺院(壽福寺・安養院・妙本寺・浄明寺)をご案内しました。
いずれも寺院も賑わう鎌倉にありながら、比較的静かに参詣ができます。ぜひ、政子の面影を感じながら訪ねてください。
2回にわたりお読みいただきありがとうございました。
◎参考文献
『鎌倉仏像さんぽ ~お寺と神社を訪ね、仏像と史跡を愉しむ~』