「監督、クラブ、チーム、チームメート、ファン・サポーター……全方位から自分が求められているものと自分が求めているもの、そのすべてに達せていないことに、自分自身が納得できなかったんです。最終的には、自分のプレーに全然、満足できないことが大きくて、試合に出られないことも納得というか、『そりゃそうだよな』って思ってしまった部分もありました。毎日が楽しくないというか、重圧とストレスで、全然、ハッピーじゃなかった」
「どこでプレーしていても、その自覚を感じやすい性格ではあるんですけど、浦和レッズでプレーするようになってからは、一層、それが大きいことは間違いないです」
「一つは自分が生きていくうえでのスタンスを見直そうと考えました。物事において、真面目に、全力で取り組んでいても、結果が出ないことってあるじゃないですか。逆境に立たされれば立たされるほど、燃える人もいるかもしれないですけど、自分の場合は、自分で自分を苦しめすぎていたなと」
「もともと、思い詰める傾向が自分にあることは自覚していたんですけど、具体的にどうすればいいかは、あまり分かっていなかったので、メンタルトレーナーと一緒に見直したんです。練習や自主練、それこそ日常生活でも、自分がやらなければいけないことってたくさんありますよね。その理想や目標に到達できなかったとき、いつも自分を許せなかったんです。しかも、本来の僕は、ストイックな人間じゃないのに、ですよ」
「めちゃくちゃ負けず嫌いなんですけど、決して職人のようなタイプじゃないんですよ」と言って、小泉は笑う。
「だから、本当はいろいろなところで妥協したい人間なのに、頭ではその妥協が許せない。理想と現実の折り合いが難しくて。理想とする自分が高すぎて、自分はこういう人間でいなければいけないとか、練習ではここまでやらなきゃいけないという、自分に対する設定が厳しすぎたんです。
「ウォーミングアップで置いてあるマーカーまで走って折り返すときに、(岩尾)憲くんは絶対にマーカーを回っているんですけど、他の選手はだいたいがマーカーの手前で折り返すんです。自分も同じように手前で折り返したいのに、そうする自分が許せないから、憲くんと同じようにマーカーまで行って折り返していた。
「自分が理想とするプレーには届かなかったとしても、今の自分がチームの力になれることはたくさんあるなって。固定したメンバーだけで、連戦を戦い抜くのはどう考えても難しいし、試合に出ている選手たちの疲労も溜まっていた。
「このチームには佳穂の力が必要だ」
「監督からそう言ってもらえて、自分自身も『そうだよな』って思いました。自分がうだうだして、チームに迷惑を掛けている場合じゃないなって」
「例えば、スムーズにボールを回すことや、相手をいなすこと、守備では穴を空けないこと。また、試合から運の要素を排除してゲームをコントロールする、自分たちの想像の範囲内でゲームを進めていけるように、自分が力になれるところはあるなと」
「だから、チームが最後に勝ち点3を取れさえすれば、自分が結果を出せなくてもいいと考えていました。自分がピッチにいることで少しでもチームにとってプラスになるのであれば、OKという目標設定にしたんです」
「チームのためにって、すごく綺麗な言葉に聞こえますよね。でも、自分としては、これは半分、逃げだと思っています。要は自分のパフォーマンスには目をつぶっていることになる。自分の理想をいったん、シャットアウトして、チームという単位で考えることで免罪符にしているんです。だから、ある意味、僕は自分から逃げていると思いながら、少しでもチームのプラスになっているなら許そうと思ってプレーしていたんです」
「自分に毎試合、結果を求めすぎて、バランスを崩してチームに迷惑を掛けるくらいならば、個人の結果は捨てて、チームのためになる選択を意識しています。その根っ子には、監督から必要だと言ってもらえたこと、チームメートが連戦のなかでも苦しそうに頑張り続けてくれている姿を見て、力になりたいと思ったことが半分。あとの半分は自分への免罪符みたいな気持ちがありました。柏戦の結果は、そんな自分にちょっとしたご褒美をもらえたみたいな」
「昔からチームのことを考えてきたので、そこはもともと持ち合わせていた性質だと思っていますけど、今まではチームのことを考えつつ、かつ自分の理想も追いかけてきた。その目標設定を変えた今、個人に目を向けると停滞なので、後退しているのと同じことなのかもしれないですけど、1人のサッカー選手として懐を深くする、1人の人間として器を大きくするためには、すごくいい経験になったと思っています」
「以前の自分は、ボランチみたいな役割もやろうとしていましたが、今は自分が与えられた役割、範囲で、全力を尽くそうと考えています。その分、ゲームコントロールについては、憲くん依存が進んでいるとも言えるんですけどね」
「これが正解だとは思ってないんですよ。もっと最適な個とチームのバランスを見つけられたとき、この時期が初めて糧になるのかなと」
「だから」と言って続く。
「ルヴァンカップでは決勝で負け、リーグ優勝の可能性もなくなり、それでもFIFAクラブワールドカップに向けて、もう一度、スイッチを入れ直さなければいけない。選手だけでなく、ファン・サポーターにとっても気持ちを切り替えるのは、簡単ではなく、難しいことだと思っています。
(取材・文/原田大輔)