令和5年度埼玉新人戦(新人選手権大会)は、武南と西武台が栄冠を分け合って閉幕した。延長戦を戦って2-2で終了。大会規定によりPK戦は行わず、通算9度目の両校優勝となった。武南は2大会連続11度目、西武台は7大会ぶり7度目の頂点に立った。
昨年の武南は2月の新人戦、4月の関東高校大会予選、6月のインターハイ予選を制し、1997年以来の3冠に輝いた。全国高校選手権予選は準決勝で昌平に完敗し、17年ぶりの出場こそ逃したものの、各ポジションに才能豊かな好人材を配し、昌平に劣らぬ高い水準のチームを編成して1年間を戦い抜いた。
昨年のレギュラーはすべて抜けたが、新チームも能力のある選手が大勢いる。インフルエンザに罹患する選手が続出したことで、多数の顔触れが今大会を経験。出番が回ってきた面々は、指導陣の期待以上の働きをして2連覇に力を貸した。
内野慎一郎監督は「体調不良者が大勢いたが、誰が出てもよくやってくれた。いろいろな選手を起用し、試すことのできる場になりました」と収穫のひとつを口にした。
1回戦から準決勝までの3試合を無失点で勝ち上がり、決勝での2失点もオウンゴールなどで守備ラインを切り裂かれたものではない。選手が目まぐるしく入れ替わる中、4試合で7得点・2失点の数字は上々だろう。
内野監督は浦和南とぶつかった準決勝が、これからの武南をワンランク上に押し上げる鍵を握ると見ているようだ。「このチームがあんな圧力を経験するのは初めてだし、あれだけセカンドボールを拾われたのは浦和南の圧力が上だったから。ものすごい圧力の中でも戦えるようにしたい」と先を見据えた。
ただ決勝については「こぼれ球をよく拾えたし、ボールを保持する時間も長かった。浦和南戦の(課題となった)場面を自分たちで解決してくれましたね」とうれしそうに説明した。
ドリブルと短いパス交換を織り交ぜた武南らしい崩しの形も随所に見られ、練習の成果をピッチで上手に表現していた。後半9分の先制点は美しい流れの中から生まれている。
MF畑乙樹(2年)が中央でFW河西琥(2年)からボールを預かると、間髪入れずに右へ展開した。この時、河西はゴール前に走り込んでいて、MF川崎悠斗(2年)からの斜めの最終パスを右足で蹴り込んだのだ。
精巧なパスを通わせる技術とフリーランニング。こういった集積こそ武南の目指す得点過程だ。
後半17分から登場し、同点ゴールをものにした1年生のMF関口海龍は、「ドリブルとパスとスピードで取った点は気持ちがいいし、もっとそういうパターンを身に付けたい」とチームの狙いを掲げる一方で、「ボールを取られた時の切り替えが遅いので、そこをもっと頑張りたい」と話した。指揮官も「いろいろ吸収して今、すごく伸びている選手」と期待を寄せる。
“攻守の切り替え”はチームにとって課題のひとつでもあり、選手間の共通認識のようだ。
ゲームキャプテンを務めるCB杉浦陸玖(2年)も、関口と同じことを言った。
「うちはまだ切り替えの部分が物足りない。後ろからそれがよく見えるんです。その遅い課題を練習で修正し、関東予選では違う武南を見せたいですね」
関東高校大会予選は最近の4大会ですべて決勝に進んでいるだけに、どんなチームに変化しているのか楽しみでもある。
(文・写真=河野正)
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