職場では正論や正しい意見だからといって受け入れられるとは限らない。そんなとき、「反対意見」を通すにはどうすればいいのか。元駿台予備学校講師の犬塚壮志さんは「『しかし』や『だけど』のように逆接ではなく、『その上で』や『だからこそ』のように、順接で表現することが重要になる」という――。
※本稿は、犬塚壮志『説明組み立て図鑑』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
相手にとって耳の痛い話をどう伝えればいいか
「正しいことを伝えているのに、なんで聞き入れてくれないんだ……」
「自分と違う考え方をしている人と話すと、いつもぶつかってしまう……」
勘違いや思い込みにより明らかに相手が間違っている場合に、正論や正しい意見を伝えてもなかなか聞き入れてくれないといった経験はないでしょうか? 場合によっては、ぶつかってしまうなんてことも……。
経験豊富なベテラン社員であっても、その分、思い込みも持ちやすかったりするでしょう。狭い業界、閉ざされた世界の中でしか生活していないとしたら、触れる情報が限定的になってしまいます。その結果、事実の正しい解釈ができなくなってしまう可能性もあります。
そういった人たちの考え方や認識に対して、そこを正したり修正したりする意見、すなわち反対意見を伝えるのは骨が折れることでしょう。相手にとって耳の痛い話を伝えるのであればなおさらです。
コミュニケーションに関わる研究をしている私自身も、反対意見を伝える上で過去に数多くの失敗をしてきました。
反対意見を伝えて契約解除になった過去
予備校講師として登壇していた頃、質問や相談に来た生徒になんの工夫もせず、反対意見だけを伝えていました。
講師という立場上、生徒とぶつかることはほとんどなかったのですが、生徒の考えや意見を真っ向から否定したところ、表情から明らかにモチベーションが下がっていくのがわかりました。
中には反対意見をそのまま伝えたせいで、涙を流してしまう生徒もいました。立場も含め、正しいことをそのままに伝えることは、相手の心にダメージを与えてしまうのだと猛省しました。
また、独立後は、コンサルティング業務も行うようになったのですが、明らかに間違っていること、特にクライアントにとってリスクがあったり、倫理的に誤っていたりすることに対して、ど直球に反対意見を伝えていました。
正しいことを伝えることがコンサルタントとしての自分の職務だと思っていたからです。
ただ、正論をそのまま相手に突きつけても、しかめっ面になって腕を組んでふんぞりかえったり、急に不機嫌になってヘソを曲げてしまったりすることもしばしばありました。
場合によっては、それがきっかけでクライアントとの関係がギクシャクして、契約そのものを打ち切られたこともありました。
正論を伝えるだけでは逆効果
「自分は正しいことを伝えただけなのに……」、「誠実な対応をしたつもりなのに……」、そう思っても後の祭りでした。独立して間もない私にとって、クライアントを1つ失ったことは大きな打撃でした。
自分に置き換えて考えるとわかるかもしれませんが、確かに自信や確信を持って提示した自分の意見を、「それ、違うんですよ」「その考え方は間違っていて、……」のような言われ方をすると、自分のすべてを否定されたような気になってしまい、正しいことを言われても受け入れたくないという感情が湧いてきます。
自分の得意領域に関わることであれば、プロとして自負の念があり、反対意見に対しては感情的になってしまいます。
相手には相手の理屈があります。その中で、いかに誤った考えを修正できるかは、伝え方に工夫が必要なのだと身をもって知りました。
こういった失敗経験から、周囲とぶつかることなく成果をあげているビジネスパーソンを徹底的に分析しました。
特に、相手と意見が合っていないにも関わらず自身の意見をスムーズに通している人の伝え方から、その話の組み立て方のパターンを抽出したのです。
仕事ができる人が実践している「話の組み立て方」
抽出したパターンというのが、以下の4つのステップで組み立てるものです。
Step1 相手の意見や主張を理解できるスタンスを示す
Step2 相手の意見や主張の「全体」ではなく、その「一部」に別の考えを自分は持っていることを示唆する
Step3 反対意見を提示する
Step4 反対意見の理由を述べる
このステップで話を組み立てることで、相手の主張を覆す証拠や根拠を武器にしながら、相手と大きな衝突なしに正当な反論を行うときに重宝します。具体的に各ステップを説明していきましょう。
Step1では、まず、相手の意見を簡潔に復唱し、受け止めたことをアピールします。「確かに●●というご意見は、すごくわかります」のようなフレーズです。いきなり反対意見を出さないことが、反対意見を通す上で、実は非常に重要です。
なぜなら、相手の意見を真っ向から全否定をするような話し出しでは誰にも聞く耳を持ってもらえないからです。たとえ自身の反対意見が正論であったとしても、相手に心の扉を閉ざされないような入り方を心がけます。
Step2では、「しかし」や「だけど」のように逆接ではなく、「その上で」や「だからこそ」のように、順接で表現することが重要です。「その上で、●●の中で▲▲とおっしゃっていた部分についてのみ、私には別の考えがあります」のようなフレーズです。
「反対に」や「逆に」のような逆接のワードは、相手のメンタルブロック(心の壁)を作ってしまう可能性があるためです。こういったワードはあえて使わないようにします。
「一部」の意見が合わないことを示す
また、相手の意見や主張の「全体」ではなく、その「一部」に自分は別の考えを持っていることを示唆します。ポイントは、対立するのが部分的であることをアピールすることです。
具体的には、「実は、●●の中で▲▲とおっしゃっていた部分についてのみ、私には別の考えがあります」のようなフレーズを使い、あくまで「部分」についてだけ物申すというスタンスをアピールするのです。
Step3で、やっと反対意見を提示します。「その考えというのは、■■というものです」のようなフレーズです。ポイントは、単に反論や異論を唱えるだけでなく、議論であれば代替案も提示することが望ましいでしょう。
Step4では、「なぜなら、……という事実があるのです」のようなフレーズで、反対意見を唱えた理由を述べます。ここは説得力を高め、かつ相手の反論を防ぐために、事実ベースで根拠やデータを示すことが重要となります。
イメージを持ってもらうために、この組み立て方を使った反対意見の具体例を紹介します。
証拠と質問の組み合わせも効果的
自分が住んでいる町の住民会で、近隣の道路の渋滞緩和の施策について意見交換している場面を想定します。
Step1 「確かに、●●さんの、“住民の安全を考えた場合、渋滞を緩和するために道路を建設すべき”という主張は非常によくわかります」
Step2 「渋滞緩和の対策を行うことは大賛成なのですが、その上で、道路建設についてのみ、私は別の考えがあります」
Step3 「住民の安全性を考えるならば、いきなり道路を建設するよりも、たとえば、子どもたちの通学時間帯のみ交通規制を行うといった対策はどうでしょうか」
Step4 「というのも、実は道路建設は中長期的には通勤圏が広がり住宅開発が進んで、結果的には交通量が増えてしまうという他県のデータがあるのです」
なお、相手が非常に頑固な性格で、これらのフレーズすらも拒絶反応を起こすような人であれば、Step4で提示した「事実」をStep1の直後に伝え、あえて質問形式で相手の意見を再度求めるのも効果的です。
例えば、「あなたのご意見は非常によくわかります(Step1)。その上で、この事実(データ)についてはどう思われますか?」のような伝え方です。
最後に、この話の組み立て方をより効果的に用いる際のポイントについてまとめておきます。
「いかに相手に聞く耳を持ってもらえるか」が最重要
組み立て方のポイントを一言でいうと、「自分の反対意見に対して、いかに相手が納得してくれる理由や根拠を示せるか」です。つまり、前述のStep4において、いかに自身の主張(反対意見)を下支えする証拠となる事実を用意できるかがカギです。
裏を返せば、相手に反論や異論を唱えても、それを下支えする証拠や事実が乏しければ、相手を納得させることができず、自分の反対意見が通らない可能性が出てきます。
そのためにも、まずは、相手が納得せざるを得ない証拠を事前にしっかりと集めておくことが肝となります。
反対意見を伝える際に最も重要なことは「いかに相手に聞く耳を持ってもらえるか」です。どんなに素晴らしい反論も相手が聞いてくれなければ意味がないからです。
聞く耳を持ってもらえないと、どんなに正しい意見を伝えても、どんなに強固なエビデンスを提示しても、コミュニケーションは成立しなくなります。
聞く耳を持ってもらい、相手とぶつからない話の組み立てで、「反対意見」をぜひ伝えてみてください。
[教育コンテンツプロデューサー/士教育代表 犬塚 壮志]